X68030のその先へ
X680000シリーズの最高機種はX68030
1988年、モトローラ社のMPU「68000」を搭載したX68000の発売後、5年間はアーキテクチャを変更しないということで、後継機種として1993年に同じくモトローラ社の68030を搭載した「X68030」が発売されました。
第一弾 第5回 - 電子書籍・漫画のCOCORO BOOKS
しかし時代遅れのスペックとなっており、新機種であるにも関わらず販売台数もそこまで伸びること無く、残念ながらX68000シリーズの歴史はそこで終わってしまいました。
X68000と完全互換でなかったのも泣き所だった
一方で「68030の上位MPUの68040が動けばかなりパワーアップできそう…!!!」と思った個人ユーザーの手によって、同人ハードウェアの「040turbo([読み方]まるよんまるたーぼ)」は生まれました。
※開発について詳細に書かれたこちらの書籍は大変オススメです。
そして040turboの後に、さらに68040から68060にパワーアップさせた060turbo([読み方]まるろくまるたーぼ)が満開製作所から発売されました。
060turboの値段はなんとMPU無しで158,000円。簡単に手が出せる金額ではなく、当時は泣く泣く見送りました。
その後もオークションでちらほら見かけましたが入札する勇気が出ませんでした。
動くか分からないものに10万円以上出すのは勇気が必要
060turbo(replica)と運命的な出会い
X68000活動を再開してからもいつかは060turboを体験してみたいと思っていたある日、気になるポストを見つけました。
先日、BOOTHで、040turboレプリカを出品されていたアカウントから今度は060turboレプリカをBOOTHで頒布するというのです。
040turboレプリカは、自分がすでに040Execlを持っていたのと040turboは過去に所持したこともあったので手は出さなかったのですが、夢にまで見た060turboがすぐそこに…。
でも...お高いんでしょ?
040turboレプリカが48,500円だったのでもっと高いのかと思ったのですが
040turboレプリカよりちょっと高いくらい!?
このアクセラレーターボードを手に入れたたとしても、MPU(68060)やSIMM、起動用のROMは自分で用意しないといけないなど、不安要素はありましたが買ってから考えることにしました。
頒布数もそこまで多くなかったのか、速攻で売り切れになっていました。
必要なパーツの調達
060turbo以外に必要なものあり
MPU(68060)
一般的に言うところのいわゆるCPUです。
最上位のMC68060の75MHz版が理想ですが「ほぼ入手は不可能」らしいので、まだマシな50MHzのLC版を探します。
あまりrevが古いとバグありだったりシルク印刷を偽装したニセモノも出回ってる(下記リンク参照)らしいので、なんとかしてちゃんと動く68060を調達したいところです。
68060のオークションでの入手は68040と比べるとかなり難しく、今回はebayで調達しました。
フルスペック版がMC68060、FPUなしが68LC060、さらにMMUもないのが68EC060です。
060turboの標準クロックは50MHz駆動ですが、最大75MHzまで駆動実績があるそうなので、起動しなかったり030の個体差に左右されるそうなのですが、まずは標準の50MHzで動かすことを目指します。
ついでに、68030もX68030純正の68EC030だったので、フルスペック版のMC68030RC50(50MHz版)を合わせて注文してみました
MPU用ヒートシンク
MPU用のFAN付きのものがあればベストですが、68060は68040よりも発熱量は少ないため、50MHz稼働ならヒートシンクのみ(ファンレス)の運用でも大丈夫のようです。
ダイサイズはインテルのi486や68040と同じ大きさで46mm x 46mm くらいでした。
ヒートシンクが高すぎるとカバーが閉まらなくなるので1cm以下くらいのものがよさそうです。
MPUにヒートシンクは伝熱シールを利用して貼り付けます。それぞれ秋葉原の千石電商の地下フロアなどでも入手できるようです。
こちらのサンハヤトの放熱用両面テープを愛用しています。
MPU用下駄pin
040turboと同様に、X68030本体の68030ソケットを延長して、060turboをピンでつなぎます。
正方形型のピンタイプでつなぐ方法と、 1列ずつのピンを植えてつなぐ方法とがあります。
こちらも入手する方法が限られていて、2020/2時点では下記のサイトから入手できるようです。
トキワエレネット
R550-10-124-13-041013
1~24個
税抜単価 4100円
在庫無し
受注後約1週間
佐川Eコレクト便による現金代引き
送料+代引き手数料 税抜1000円(本州外は別途お見積り)
少量注文では割高なので、ebayなどで見つける方が良さそうです。
起動用ROM
ここが040turboと大きく異なり060turboを起動させるためのIPLを焼いたROMが必要となります。
ROMはオリジナル版と、エミュレーター用にBugFIXされたXEiJ版があります。
そもそもX68030は、IPL(ROM)を追加して別のROMからブートできるという拡張機能があり、これのおかげでXellent30や、040turbo/ExcelのようにSRAMに仕込んだブート用のプログラムから起動しなくて済みますがその分ハードルが高いです。
今回は、純正のROM(起動時に060turboのロゴが表示される)と、デバッグされているというXEiJ版を用意できました。
XEiJ (X68000 Emulator in Java) :
今回の件があってこのROMのことを知りました。
060turbo 用 ROMの作成 (XEiJ IPL) :
72pin SIMM
無くても060turboは使えますが、ローカルメモリとしてRAMDISKや起動ROMの内容やプログラムをコピーして実行するメモリにもなるのでぜひ入手したいところです。
今となっては珍しくなりましたが、72pinのノンパリティ、60nsの16MB、32MB、64MB、128MB SIMMに対応で、EDOでも非EDOでも良いのです(相性で動かないことはありそうです)。
手元にあったSIMMは、16MBや256MBだったので、256MBのは使えなかったので、128MBをebayで注文しました。
パーツの取り付け
調達したパーツを順番にアクセラレーターボードに取り付けていきます。
MPUの取り外し
まずは、X68030についている68030をはずします。
ICとりはずし器があればベストですが、無い場合にはやわらかいものをひいた上でマイナスドライバーでテコの原理で4方向から少しずつ浮かせてはずします。
もし外すときにピンが曲がってしまった場合はまっすぐに直しておきます。
はずした68030と、用意した68060を060turboボードに取り付けますが、どの向きでも挿さってしまうので挿す向きには特に注意しましょう(最悪壊れます)。
68060には放熱用両面テープを利用してヒートシンクをつけます。
68040と比べると50MHzでは指で触れるくらいの熱さにしかならないのでヒートシンクのみで十分そうですが、75MHz駆動に挑戦する場合や電源をひける余裕がある場合はPentiumのように空冷ファンをつけるのがベストでしょう。
ヒートシンクは中古だったので、放熱用両面テープ(伝熱シート)を剥がした時のノリを無水エタノールと綿棒でお掃除してから、貼り付けました。
起動用ROMの取り付け
準備しておいたROM(ODDとEVEN)を上下の向きと場所に気をつけながら慎重にとりつけます。
今回は060turbo純正ROMが準備できたのでそれを取り付け、メインボード上のROMの切り替えスイッチ(ROMSW)を変更し、追加したROMから起動する設定にします。
SIMMの取り付け
SIMMは切り欠きをあわせて垂直に挿してからナナメに倒すと「パチッ」とハマります。
これまた懐かしい取り付け方法
そして、挿したメモリの容量に応じて060turbo上のDIPスイッチを設定します。
dipsw1 | dipsw2 | SIMM |
OFF | OFF | 16MB |
OFF | ON | 32MB |
ON | OFF | 64MB |
ON | ON | 128MB |
ちなみに、dipswの3は未使用で、dipswの4は、2倍クロック(50MHz)、3倍クロック(75MHz)の切り替えです。
各種配線
最後に060turboモード時に点灯するLEDのコードと、030/060の切り替えスイッチのコードをつなぎます。
切り替えスイッチはFG(フレームグランド)の端子をはずしてその穴から出すのが定番でしたが、今回はなるべく本体を加工しないポリシーでいくために、拡張スロットの隙間からぶらさげておくことにしました。
あとは下駄ピンをはかせて、68030があったところに上から060turboのボードを挿して完成です。
040turboのようにネジ止めして支える部分がなくやや不安定ですので輸送時は要注意です。
ちなみに、右上にあるFC2で、FC2ピンのON/OFFができます。NetBSD/x68kをインストールしてX Windowを使う場合はONにします。
NetBSD/X68k (X68k Programming Series)
NetBSDを手探りで移植したときの話 #x68k - Qiita
動作テスト
まずは030モードで起動してみてこれまでと同じように使えるかをチェックします。
問題なさそうでしたら、次にスイッチを060モードに切り替えて起動させます(060LEDが点灯します)
ここまでで期待通りに動いていない場合はすぐに電源をOFFににします。
060turboをとりはずしてMPUの向きの確認や、内蔵ROMでの起動、SIMMをつけずに起動するか、などを確認します。
シルク印刷ではMC68060となってますが、実際の中身はXC68060なのでしょうか。
MCとXCの違いは、LCやECのような違いはなく、オーバークロックによる耐熱性の違いのようなので問題なさそうです。
50MHz ベンチマーク
ツールで測定してみました。
si(3.66)
当時使っていた古い?バージョンだとなぜか「メモリが足りません」、という謎のエラーで実行できなかったため、internet archiveからダウンロードできたver 3.66を入手して実行しました。
キャッシュオンだと対10MHz機比較で、133倍の性能です。
もちろんCPUだけの話なので、すべてが133倍にはなりませんのであしからず。
winner2(1.11R2)
こちらだとキャッシュオンで対X68000比較で44倍でした。
75MHz駆動への挑戦
ここでディップスイッチの4番を変更して、禁断の75MHz駆動を試しました。
クロック表示がおかしく、さらには白帯が表示されて使い物にはなりませんでした。
やはり75MHz駆動は幻のなのか…、
その後しばらくして、「060turbo replicaが75MHzで安定稼働してる」という話を見つけました。
え?75MHzで使う方法があるの?
75MHz化安定化改造
どうやら、060turbo Replicaの作者さん謹製のパーツ(GALとチップ抵抗)をつけると75MHzで安定化するかもしれないと。
壊れても自己責任の世界ですがトライしてみました。
MC68060RC50 rev.06でトライ
用意したMC68060 シルク印刷のマーキングは「MC68060RC50」
ロット番号は
01F43G
QEED0203A
MALAYSIA
si.xによると、rev.06のようです。
改造パーツ取り付け
まずは簡単そうなGAL交換から着手しましたが、いきなり難しくどうやら取り外しには専用の工具が必要そうです。
専用工具が手元にはなかったので、細いマイナスドライバーで抜いてみることにしました。
四隅からちょっとずつ力をかけていくと取れましたが、足が曲がったりするのでやはり専用工具が良いでしょう。
新しいGALを向きに気をつけてはめ込みました。はめ込む作業自体は簡単でした。
次にチップ抵抗の取り付けですが、想像以上にパーツが小さくて鼻息で飛んでいくため難しいです。
15 チップ部品のはんだ付け(表面実装) - ゴッドはんだ株式会社 法人個人はんだ付けサービス はんだ付け教材販売 はんだ付け講座 :
心が折れそうになりましたが、はんだ付けの情報サイトを見ながら粘りました。
基板上に薄くハンダを盛り、ピンセットでチップ抵抗を抑えつつハンダゴテでハンダを溶かしました。
くっついたら残りのもう片方もコテをあててハンダを溶かしてくっつけます。
最後にフラックスを塗ってそこもコテで温めて完成。
・・・と、実際はこんなにスムーズにはいかなかったのですが、ギリギリくっついてるようでしたのでよしとします。
75MHz 動作テスト
まずはこれまでと同じ50MHzで起動してみましたが問題なさそうです。
いよいよ、禁断のディップスイッチ4番をONにして75MHz駆動にしてみます。
クロック表示も正常に75MHzと表示されており、白帯も出ていないようです。
やりました!成功のようです。
試しにMMDSPでMDX+PCM8の再生テストをしてみました。cache onでも問題なく動いています。
75MHz ベンチマーク
それでは恒例のベンチマークです。
cache off
si
winner2
cache on
si.x
対XVI(10MHz)比で、20,000%!
winner2
integerで、対X68000比で124倍、対040turbo比で6倍!
dskbench
060turbo.sysで確保した64MBのRAMDISKでベンチマークしてみました。
問題なさそうですが、増設してるSIMMが認識しないという話もあるようなので、外部メモリの利用においては相性もありそうです。
(参考)安定化対策
過去に発売された060turboでハードウェアのバグFIXされたバージョンがいくつかあり、満開製作所版には対応した内容を記したそれぞれの色のシールが貼ってるあるそうです。
- リセット対策
- SIMM対策
- 寒冷時の起動不良対策(R17撤去)
- 高速化改修
- EDO対応
060turbo サポート情報 - 060turbo の添付ディスク - 060turbo 関連 - 特定のハードウェア用のソフトウェア - ソフトウェアライブラリ - X68000 LIBRARY
寒くなると逆に使えなくなるとか厄介
060turbo対応ソフト
なんと、2009年と2010年に、060turboでのプレイを推奨したゲームが市販されていたので紹介します。
- ロードブラスター
- サンダーストーム
どちらもWindows移植ゲームの中にX68000版が入っており、040turbo以上でないとかなり動作が重いようです。
まとめ
当時はX68000ブームもかなり下火になってきており、一部の間でしか楽しめなかった060turbo環境が、令和になって復刻されたり、PhantomX+Raspberry Piで楽しめたりするのは大変うれしいです。
もちろん、X68040、X68060が公式に発売されていたら...と妄想することはあるのですが、その叶わなかった夢を少しでもユーザーたちで補完できたのは尊いことかなと思います。
X680x0の実機での限界性能として、060turboのベースクロックを33MHzにクロックアップして3倍にした99MHzあたりになるのか、いつか挑戦してみたくはあります。
かなり入手のハードルが高いですが、機会があれば040turbo/060turbo、もしくはPhantomXを入手してその当時の空気感を体験してみてください。
060turboはロマンのハードウェア