
レトロMIDI音源の生い立ち

レトロゲームにかかせないのがレトロMIDI音源
レトロパソコン時代のゲームBGMはいわゆるファミコンに搭載された「ピコピコした音(PSG音源と呼びます)」や、少しリッチになった「FM音源」が主流でした。
そんな中、リアルな楽器に近い音楽を奏でることのできるシンセサイザーが発売され、それらを操る信号の規格を「MIDI(ミディ)」と呼びました。
よってMIDIとは元々は音楽家の使用するものでしたが、パソコンからも利用できるようになることでゲームなどで豪華な音楽が聞けるようになりました。
そんな当時、ゲーム用のMIDI音源でもっともメジャーだったのが、Roland社の「LA音源(MT-32/CM-64)系」と「GS音源(SC-55)系」です。
ローランド・SCシリーズ - Wikipedia :SC-155は1992年、SC-55mkIIは1993年発売されました。
今回はレトロPC同様に長く使っていけるようにレトロMIDI音源の代表格「SC-55」等をメンテナンスしていきます。
Roland SC-88Proの修理:電解コンデンサ交換 | ごはんたべよ : 修理に当たって、こちらのブログも参考にさせていただきました。

音源によってコンデンサの数が若干異なりますが、基本的な構成はほぼ同じなため、メンテナンス手順も近いと思いあわせてメンテナンスしていきます。
メンテナンス項目
基本的に作りがしっかりしており故障しにくいMIDI音源ですが、やはり古いだけあって時々故障した機体を見かけます。
主に修理する箇所としては「電解コンデンサー」「タクトスイッチ」「ボタン電池」になります。

GS音源メンテナンスに使っている工具一覧
分解
分解(SC-55&SC-55mkII)
SC-55mkIIを分解していきます。まず、カバーを止めている短いネジ(背面1本、側面4本)をはずします。
次に、背面と基板を止めているやや長いネジを5本とACアダプターのケーブルをひっかけるパーツの1本(このネジだけ違うネジ)をはずします。
最後に、基板を底ケースに固定しているネジを基板の上から5本、裏面から2本、はずします。ネジの種類が微妙に違うので要注意です。
SC-55はmkIIと異なり、中央に鉄板があったり、コネクタが外しにくかったり、メンテするのにやや面倒でした。

次に、基板がはずすためにオレンジ色のコネクタを基板コネクター外しを使って慎重にはずしていきます。
こちらの工具が大変便利でした。
黒いフラットケーブルの刺さっている白いコネクタは特殊で、左右のロックを上に押し上げると抜けます。無理やり抜いてはいけません。
あんまり固い場合は、あきらめて抜かずに作業するのも1つです(作業しづらいですが)
これで底ケースから基板が外せるのですが、ピッタリなサイズで入ってるので外れにくく、根気強く動かすとはずれました。

タクトスイッチを交換するためにはフロントパネル部分も分解します。
まず、パネルの上下に合計4本黒いネジがあるのをはずし、次にパネルに基板を固定しているネジを外します。
この時に、コネクター類がうまくはずれない場合は無理せず、コネクタのコード類を束ねてケースに固定している結束バンドをカットして作業する方法もあります。

分解(SC-155)
メイン基板は取り外ししやすいですが、液晶パネルの部分などがシールドがあり若干面倒でした。
背面と前面下のネジをはずすとカバーがはずれます。

真ん中の3つのネジでメイン基板と底の鉄板を固定しています。

長さが若干違うネジで背面から止められています。

フタを開けるときにつながっているケーブルに注意します。

複数のコネクタがあるので、どれがどこにつながっているか記録しておきましょう。

白いコネクタだけ特殊でツメを上に上げると抜けます(SC-55mkIIと同様)

コネクターはずし器具をここでも活用します。

表面部分がシールドで覆われているのでネジをはずします。
左上のところのタクトスイッチの基板と右上のPOWERスイッチの基板は、小さいネジをはずすと外れます。

SC-55と異なりスライダー部分の基板があります。汚れていたので綺麗にします。

最後にスライダーの上の部分の基板です。ここにもタクトスイッチがあるので交換します。
分解(SC-88ST)
天板が止めてある左右と後ろのネジをはずして、フロントパネルのネジを4つはずすし、基板を止めているネジを両面からはずすと基板が取り出せます。
コネクタも1つしかなく、一番簡単な作りでした。

分解(SC-7)
プラスチックなケースの底面のゴム足のところの中のネジを4本はずすとばらせます。
なんとこいつ、基板にシールド板がご丁寧に上から下からはんだ付けされていて厄介です。

根気よく丁寧にハンダを剥がすと基板が取り出せます。

電解コンデンサーの調達
主なメンテナンス項目としてはこの電解コンデンサーの交換になります。
日本ケミコンのKMGシリーズ(105℃品)とニチコンのUVZシリーズを準備しました。
タクトスイッチ 6mm角2ピン 180gf 黒 10個入り TVDP17-050B-D*10 _製|電子部品・半導体通販のマルツ :

MIDI音源の内部スペースはそこまで厳しくない実装のためあまり問題はないですが、念の為一番大きいコンデンサーだけ内径を測って大きさを確認します。
耐圧が上がるとその分内径が大きくなるので、他の部品と干渉しないように注意です。
SC-55 電解コンデンサー24個(全てラジアルタイプ) 【初期】GS standard

実は、SC-55は発売時期によって「初期」「中期」「後期」3バージョン存在するようです。
すべて85度品です。1つだけ、抵抗に直付けされているものがありました(???というのがそれ)初期版なので、色々不安定だったので後付けされたのかもしれません。
耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C3(Φ12mm,hight22mm) | 16V | 2200μF | 1 |
C6,C10,C16,C30,C43 | 16V | 100μF | 5 |
C13,C58,??? | 16V | 47μF | 3 |
C18,C19,C31,C32,C33,C34 C44,C45,C46,C47,C48,C49 | 16V | 10μF | 12 |
C7,C35,C36 | 50V | 1μF | 3 |


珍しいチップ抵抗に直付けコンデンサー
SC-55 電解コンデンサー24個(全てラジアルタイプ) 【中期】GS

耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C2(Φ12mm,hight22mm) | 16V | 2200μF | 1 |
C18,C19,C31,C32,C33,C34 C44,C45,C46,C47,C48,C49 | 16V | 100μF | 12 |
C13,C58,C83 | 16V | 47μF | 3 |
C31,C34,C75,C78,C81,C95 | 16V | 10μF | 6 |
C7,C35,C36 | 50V | 1μF | 3 |
SC-55 電解コンデンサー24個(全てラジアルタイプ) 【後期】GS GeneralMIDI

(準備中)
SC-155 電解コンデンサー25個(全てラジアルタイプ)

耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C5(Φ12mm,hight22mm) | 16V | 2200μF | 1 |
C80 | 16V | 220μF | 1 |
C13,C25,C26,C27,C42,C77 | 16V | 100μF | 6 |
C10,C18,C24,C55 | 16V | 47μF | 4 |
C21,C22,C28,C33,C43,C44,C45,C46,C47,C48 | 16V | 10μF | 10 |
C34,C35,C78 | 50V | 1μF | 3 |
SC-55mkII 電解コンデンサー24個(全てラジアルタイプ)

私が1993年に初めて購入したMIDI音源で想い出深いです。
耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C6(Φ12mm,hight22mm) | 16V | 2200μF | 1 |
C8 | 16V | 220μF | 1 |
C3,C25,C28,C37,C44,C45,C47,C48 | 16V | 100μF | 8 |
C40,C43,C50,C53,C98 | 16V | 47μF | 5 |
C31,C34,C75,C78,C81,C95 | 16V | 10μF | 6 |
C5,C58,C60 | 50V | 1μF | 3 |
SC-7 電解コンデンサー28個(全てラジアルタイプ)

小さいコンデンサーばかりでした。普通のサイズのコンデンサーだとシールド板にぶつかるので低背を用意するか、斜めに取り付ける必要があります。
こちらはGM音源対応で、GS音源ではないので注意が必要です。
耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C61 | 50V | 1μF | 1 |
C20,C23,C30 | 16V | 220μF | 3 |
C2R,C3R,C10,C14 | 16V | 47μF | 4 |
C15,C28,C40,C46,C52 | 6.3V | 100μF | 5(16V品で代用) |
C6R,C6L,C8R,C8L,C29,C31R,C32L,C32R,C32L, C33R,C33L,C34R,C34L,C36R,C36L,C60 | 16V | 10μF | 16 |
SC-55K 電解コンデンサー37個(全てラジアルタイプ)

カラオケ用に開発されたらしく、マイク入力が複数ついていたりします。
耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C25 | 6.3V | 2200μF | 1 |
C28 | 16V | 1000μF | 1 |
C56 | 16V | 1μF | 1(低背) |
C39 | 6.3V | 10μF | 1(低背) |
C91 | 50V | 1μF | 1 |
C38,C40,C41,C47 | 6.3V | 330μF | 4 |
C36,C37,C42,C53,C90,C98,C105,C134,C135,C136 | 16V | 100μF | 10 |
C52,C62,C63,C64,C65,C66,C67,C68,C74,C77 C79,C82,C99,C100,C101,C102,C107,C108 | 16V | 33μF | 18 |
SC-55ST 電解コンデンサー20個(全てラジアルタイプ)


SC-55STには(黒)と(白)の色違いがあり、性能は同じようです。
耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C42 | 16V | 470μF | 1 |
C2 | 16V | 220μF | 1 |
C43,C44,C48 | 16V | 100μF | 3 |
C1,C50 | 6.3V | 100μF | 2(16V品で代用) |
C33,C34,C52,C53,C54,C64,C65,C67,C68 | 16V | 4.7μF | 9 |
C7,C19,C36 | 16V | 10μF | 3 |
C5 | 50V | 1μF | 1 |
SC-88VL 電解コンデンサー26個(全てラジアルタイプ)

SC-88の廉価版です。
耐圧 | 容量 | 個数 | 備考 | |
C8 | 16V | 1000μF | 1 | 一番大きい。基板に固定されている |
C9 | 6.3V | 220μF | 1 | |
C24 | 6.3V | 10μF | 1 | OS-CON(低ESR) (紫色) KYの50V 10μFで代用 |
C45,C46,C57,C58,C62,C65 | 16V | 47μF | 6 | NX-IV 音響機器用?(緑色) |
C1,C23,C26,C29,C37,C43 | 6.3V | 100μF | 6 | 16V品で代用 |
C36,C44,C69,C77,C82,C92,C96,C99 | 16V | 10μF | 8 | |
C7,C68,C71 | 50V | 1μF | 3 |
SC-88ST 電解コンデンサー30個(全てラジアルタイプ)

SC-88VLよりコンデンサーの個数は多いです。同じ種類ものが多かったり、大きいサイズのものが少ない印象です。
耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C9 | 16V | 1000μF | 1(一番特殊で大きい) |
C14 | 16V | 220μF | 1 |
C19 | 16V | 47μF | 1 |
C7,C30,C32 | 50V | 1μF | 3 |
C2,C5,C13,C15,C20,21 | 6.3V | 100μF | 6(16V品で代用) |
C16,C22,C25,C26,C29,C42,C44,C48,C51 C57,C72,C83,C90,C92,C93,C94,C95,C96 | 16V | 10μF | 18 |
SC-88STPro 電解コンデンサー34個(全てラジアルタイプ)

耐圧 | 容量 | 個数(備考) | |
C357 | 6.3V | 2200μF | 1 |
C379,C605 | 6.3V | 1000μF | 2 |
C1,C54,C55,C366,C378,C385 C387,C388,C389,C398,C399,C400 | 6.3V | 330μF | 12 |
C383 | 16V | 1000μF | 1 |
C370,C371,C372,C373 | 16V | 100μF | 2 |
C327,C328,C329,C330,C331,C332,C333 C334,C346,C347,C386,C388,C394,C396 | 16V | 33μF | 14 |
C353 | 16V | 1μF | 1(固体コンデンサー) |
C384 | 6.3V | 10μF | 1(固体コンデンサー) |
CM-300 電解コンデンサー23個(全てラジアルタイプ)
CM系の中でも「CM-300」と「CM-500」はGS音源を搭載していますので参考に掲載しておきます。
C3,C4,C22,C23 | 1000μF | 16V | 4 |
C11,C13,C28 | 100μF | 6.3V | 3 |
C37,C39,C41,C42 | 47μF(BP) | 16V | 4 |
C16,C36,C68L,C68R | 10μF(BP) | 16V | 4 |
C17,C18,C27,C32,C47,C48,C63,C68 | 100μF | 16V | 8 |
電解コンデンサーの交換作業

基板上に「+」「ー」が書いていないのでわかりにくいのですが、マイナスの印みたいなのがあるので取り付けるときはそれを目印にします。

ハンダごての温度はできるだけ低いほうが基板を傷めないので、できるだけ270℃に設定して作業しました。
手順はいつもと同じように、追いハンダ>裏面からこてを当てながらコンデンサーの頭を少しずつ傾ける>それぞれの足で繰り返す>抜く
という感じではずしていきます。
多くのコンデンサーの向きは同じなので「+」「ー」を間違えにくく親切ですが、念のため、最後に向きを確認します。
SC-55mkII
SC-88ST
SC-7 標準サイズのコンデンサーがシールド板に当たらないように斜めに取り付けています。1箇所だけコンデンサーの足と一緒にダイオードが付いてるところがありました(写真右上)
タクトスイッチの交換
部品の調達
タクトスイッチとはフロントパネルについている、押すと「カチカチ」というボタンのスイッチです。
SC-55の場合、通常のタクトスイッチは「POWERスイッチx1個」と「各種設定用x16個」の合計17個、光るタクトスイッチは「ALL」と「MUTE」の2個です。
通常のタクトスイッチはマルツオンラインで入手しました。

こちらの6mm x 6mm。2本足(2ピン)タイプのものを17個用意しました。10個で150円(税別)
【202305追記】最安値のマルツオンラインでも1個あたり26円と大幅に値上がりしていましたので、もう下がらないだろうと踏んで100個追加で購入しました。

2本足と4本足のものがあるので、間違えないようにしましょう。
光るタクトスイッチもいくつか調達する方法があるようなのですが、一番安価だったaitendoを利用してみました。
★6x6★LED付きタクトスイッチ(2個入) - aitendo

TACTILE SWITCH RED LED TLL-62BR MULTICOMP製|電子部品・半導体通販のマルツ
マルツはこのときの取り扱いは、緑、赤、青色のみでした。
LED Straight Through Hole タクタイルスイッチ – Mouser 日本
マウザーにもありました。
POWER用タクトスイッチの交換

POWERスイッチ部分は完全に分解しなくても、この状態のままでコンデンサー交換の要領で古いスイッチを取り除き、新しいスイッチを取り付けられました。
各種設定用タクトスイッチの交換

各種設定スイッチ部分は他の部品にハンダごてが当たらないように慎重に外していきます。
たくさんあるので根気強く進めます。

取り付けるときには、ボタンを押し込んでキチンと奥まで挿さっているかよく確認してからはんだ付けしましょう。
光るタクトスイッチの交換
届いたスイッチがオリジナルと比べると頭の白い部分が小さくて、半透明のキャップがきっちりハマらなかったのですが、ケースに戻すことでうまくハマりました。

色が少しオリジナルより明るいというかオレンジっぽいでしょうか。

SC-155のスライダー上部のタクトスイッチ
こちらも同じタクトスイッチで数は13個です。

ボタン電池(CR2032)の交換
ボタン電池がついている機種とついていない機種があります。
基本的にはCR2032(3V)がついています。古いものなので粉を吹いている場合もあるので、頻繁に使わない場合は取り外しておくのが良いでしょう。

接点復活剤の塗布
小容量の割には謎に高価な接点回復剤を、背面の端子(RCA)に塗布して汚れを除去します。

このあたりはオーディオのメンテナンス方法が役立ちそうですね。
動作テスト
分解と逆の手順で組み上げて、フタを締める前にテストしてみました。

デモソング再生(SC-55)
SC-55では、POWER OFFの状態から、PARTの<>を押しながらPOWER ON、そしてALLボタンを押すとでも再生が始まります。デモ曲は2曲入っています。

デモソング再生(SC-55mkII)
SC--55mkIIでは、POWER OFFの状態から、PARTの<>を押しながらPOWER ON、そしてALLボタンを押すとでデモ再生が始まります。デモ曲は4曲入っています。

やはりレトロPCにはレトロMIDI音源がよく似合いますね。

ヘッドホン出力も不調な場合があるので確認しておきます。

(おまけ)YAMAHAのGS音源
当時、RolandのGSに対抗して、YAMAHAからは「XG」音源というMIDI音源が発売されていました。
そんな中、最後の方に出た機種でGSマークが付いた音源もあったことを最近になって知りました。

たしかに、よく見るとXGマークの下にGSマークが付いています。
(おまけ)ACアダプター音源のUSB化
RolandのMIIDI音源用電源といえばこちらのACアダプターですが、正直、大きくてかなりかさばります。

これの代わりに今どきな感じですがUSBから給電できる昇圧ケーブルがありました。
センターマイナス(ー)というレアなケーブルなのですが、こちらでSC-55mkII駆動できました(くれぐれもご利用は自己責任で!)
※ちなみに初代ファミコン用のACアダプターも同じ規格なので実は使えたりします(豆知識)